北陸大学卒業生 ロングインタビュー

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親子で築く地域医療の未来
その第一歩は北陸大学から
株式会社スパーテル〈てまりグループ〉
代表取締役社長 薬剤師
橋本 昌子
取締役 薬剤師
橋本 佳奈
親子で築く地域医療の未来
その第一歩は北陸大学から
株式会社スパーテル〈てまりグループ〉
代表取締役社長 薬剤師
橋本 昌子
株式会社スパーテル〈てまりグループ〉
取締役 薬剤師
橋本 佳奈
株式会社スパーテル(てまりグループ)代表取締役社長 薬剤師
橋本 昌子
石川県珠洲市生まれ。県立飯田高校出身。1983年北陸大学薬学部を卒業し、珠洲市総合病院で病院薬剤師となる。その後、石川県薬剤師会、外資系企業の管理薬剤師、薬局薬剤師を経て、2007年株式会社スパーテルを設立。石川県を中心にてまり薬局を展開するとともに、2011年からは福祉事業にも進出。医療・福祉の分野から地域づくりに取り組んでいる。博士(薬学)。
株式会社スパーテル(てまりグループ)取締役 薬剤師
橋本 佳奈
石川県金沢市生まれ。県立金沢二水高校出身。2015年北陸大学薬学部卒業後、石川県庁に入庁。石川県薬事衛生課や石川中央保健所で働きながら、金沢大学大学院に通い、博士(薬学)を取得。その後、東京の薬局薬剤師、金沢大学附属病院の病院薬剤師として経験を重ね、2023年10月に株式会社スパーテルに入社。てまり西泉薬局(金沢市)で地域医療の向上に努めている。
橋本昌子さんと佳奈さんは親子で、ともに北陸大学薬学部で学び、薬剤師として活躍されています。薬剤師になろうと思ったきっかけは何でしたか。
橋本昌子さん(以下、昌子さん) : 中学生の時、母に勧められたのがきっかけです。白衣を着て働く姿にあこがれもありました(笑)。当時は女性の社会進出があまりなかった時代です。そんな社会で母や祖母は小学校教員として働いており、私も資格を生かし、生涯働ける職業に就きたいと考えました。

橋本佳奈さん(以下、佳奈さん) : 私も、母の働く姿が将来の選択に影響しました。一番身近な職業であり、小さな頃から「薬剤師になる」と話していたそうです。気持ちが固まったのは高校生の時です。母が「日本一親切な薬局」を目指し、株式会社スパーテルを起業しました。会社が成長し従業員が増えていく中で、薬剤師となって母を支えたいという思いが強くなりました。
北陸大学に入学した経緯をお聞かせください。
昌子さん : 能登半島の先端、珠洲市出身で、同じ石川県内の北陸大学を選びました。実は薬学部以外も受験していたのですが、ご縁があって通うことになりました。

佳奈さん : 母と同じく、県内にとどまりたいと思いました。加えて、進学について悩んでいた時、当時の石川県薬剤師会の徳久(和夫)会長や母に北陸大学を勧められたことも影響しています。
学生時代、印象に残っていることは何ですか。
佳奈さん : 正直、学ぶことの多さに驚きました。薬剤師を目指して入学したものの、今になって振り返ると、「本当になりたい職業なのかどうか」、心のどこかにまだ迷いがあったのだと思います。しかし、生半可な気持ちで目指せるほど、薬剤師への道は甘くありません。自分自身と向き合って、ようやく薬剤師になる決心がつきました。また、北陸大学薬学部には全国から学生が集まってきます。視座の高い学生もおり、そのような環境も刺激になりました。

昌子さん : 同感です。私は世間知らずの田舎の子どもでしたから、個性豊かな学生に囲まれ、社会の広さを知りました。第二松雲寮に入って友達もたくさんでき、試験前に一緒に徹夜したことも思い出深いです。学生時代の友達は宝物。今でも仲良くさせていただいています。
佳奈さんが学ぶ姿を見て、ご自身が学ばれた頃と違いを感じることはありましたか。
昌子さん : 何よりも違うのは、薬学部が4年制から6年制になったことです。学ぶ内容も異なります。在宅医療やチーム医療など、カリキュラムも変わりましたし、私が通っていた頃は無菌調剤もありませんでした。時代に合わせ、進化する学びの環境は、医療の現場に出た際に大きな強みとなることでしょう。

佳奈さん : 今後の医療業界を見据えて常にアップデートを重ねているのは、北陸大学の魅力です。さらに、北陸大学は幅広い学びを展開する総合大学です。留学生も多く、いろいろな学生と接することで、視野が拡がります。
昌子さんは佳奈さんが高校生の時に起業されたとのことですが、開業は前々から考えていたのですか。
昌子さん : 起業については、薬剤師として働き始めた当初から心の隅にありました。明確に意識し始めたのは佳奈が小学生になった頃からです。商工会議所の創業塾や経営者の集まりに参加し、モチベーションを高めながら準備を進め、2007年に会社を立ち上げました。薬剤師として石川県薬剤師会や病院、薬局などで働く中で、在宅医療や地域活動により深く関わりたいと思ったのも、開業を決めた理由の一つです。
佳奈さんは2023年10月にスパーテルに入社されましたが、大学卒業後はどのような現場で経験を積んでこられたのですか。
佳奈さん : 大学卒業後、私は石川県庁に入庁し、石川中央保健所や本庁の薬事衛生課などで働きました。その後、関東の薬局グループや金沢大学附属病院に勤めました。ゆくゆくは母が立ち上げた会社を引き継ぎたいとの気持ちがありましたから、あらゆる経験を積んでおこうと考えました。

昌子さん : 医療や行政など、薬剤師としていろいろな立場から物事に触れたことは、とてもいい経験だと思います。社長業を続ける中で感じるのは、物事をとらえる視点の重要性です。短絡的な見方しかできなければ、その場限りの仕事になってしまいます。一方、視座が高ければ、目先にとらわれず取り組むべきことが見えてきます。
てまり薬局を展開する㈱スパーテルでは、長年にわたって在宅医療の充実に力を注いでいますね。
佳奈さん : 在宅医療は薬局業務の中核です。「最期は自宅で迎えたい」と望む方も多く、近年はターミナルケアへの関わりも増えています。病による痛みを緩和するために、24時間管理が必要なPCAポンプを使用することもあります。オンコールの対応は大変ですが、「家に帰ることができ、家族や友人に気持ちを伝えられてよかった。」こう話してくださる患者様もおり、病気やけがの治療だけでなく、看取りの段階でも、薬剤師が貢献できることを実感しています。

昌子さん : このように薬剤師が求められる現場はどんどん広がっています。地域におけるチーム医療の認識も浸透し、かつては医師やヘルパーさんなどが個別で訪れていましたが、今は患者様のために何ができるかを考え、連携を深める場面が増えています。身近な薬局として、地域のチーム医療で果たす薬剤師の役割の高まりを感じています。
コメディカルに対しては大学としても強く意識しているポイントであり、これからも社会ニーズに応え、地域医療の充実に貢献していきたいと考えています。そんな本学薬学部で学ぶ学生たちにアドバイスをいただければと思います。
昌子さん : 北陸大学に限った話ではありませんが、「将来どう生きていきたいか」を描けていない学生が多いのではないでしょうか。まずは薬学の道に進んだことに、自信と誇りを持ってください。「病院で活躍したい」「薬局を開業したい」など、薬剤師として歩む未来は明るく照らされています。無限に広がる可能性を信じ、目指す将来像をどんどん発信していきましょう。失敗を恐れず、強い気持ちで挑戦していくことが目標の実現につながっていくはずです。

佳奈さん : 医療を取り巻く環境が日々変わっていくように、薬剤師の役割もどんどん進化しています。これからの医療は何が求められているのか――。受け身ではなく、主体的に考えてほしいと思います。また、固定観念に縛られずに視野を拡げ、柔軟な発想で行動を続けてほしいです。
最後に、昌子さんから薬剤師の後輩でもある佳奈さんへ、佳奈さんから薬剤師の先輩でもある昌子さんへメッセージをお願いします。
昌子さん : これから同じ会社でともに地域医療に臨むことになります。大切なのは、しっかりと目標を掲げ、その道をまっすぐに突き進んでいくことです。今後、困難に直面する時が必ず訪れるでしょう。そんな時、目標があればエネルギーも自ずとわいてきます。周囲への感謝の気持ちを忘れず、前向きに歩んでいってほしいと思います。

佳奈さん : 人への感謝や敬意を忘れず、目標に向かって努力を続ける母の姿を小さい頃から見てきました。母の人間性は素晴らしくて、その姿勢を見習っていきたいと思います。同時に、母も私も卒業生として北陸大学の看板を背負っていると自負しています。母校の評価を高めるためにも、母とともに会社の成長に向けて邁進していきます。
(2023年11月22日取材)