北陸大学同窓会 ロングインタビュー

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地域医療に注力し、選ばれる
「かかりつけ薬局」を目指す
ファーマライズホールディングス株式会社
代表取締役社長
秋山 昌之
地域医療に注力し、
選ばれる
「かかりつけ薬局」
を目指す
ファーマライズホールディングス株式会社
代表取締役社長
秋山 昌之
1990年に北陸大学薬学部を卒業し、地元(静岡県御殿場市)の総合病院に病院薬剤師として勤務。95年に現ファーマライズホールディングスに入社、97年取締役就任。2010年専務取締役に就任。2018年代表取締役社長に就任し、現在に至る。
1984年設立のファーマライズホールディングスは医薬分業の波に乗って店舗数を拡大し、現在は東証プライム市場上場企業として調剤薬局を中心に全国に約350店舗を展開しています。病院薬剤師を経て同社に入社し、2018年に代表取締役社長に就任した秋山昌之氏に、大学時代の思い出と、これから求められる調剤薬局・薬剤師の姿についてお聞きしました。
秋山社長は1986年に北陸大学に入学されました。初めて訪れた金沢の印象、キャンパスの印象についてお聞かせください。
太平洋側で生まれ育った私は、大学入試で初めて北陸を訪れました。特急しらさぎで米原から金沢に移動しましたが、金沢駅で降りると一面の雪景色です。そこから山の上にある北陸大学のキャンパスに向かうと、どんどん雪が深くなっていきました。「金沢とはこんなところなのか」とびっくりしたことを覚えています。

最初は故郷との気候風土の違いに戸惑いましたが、今となっては金沢は第二の故郷、大好きなまちです。当社の薬局が市内に数軒あるので、今もよく訪れています。
金沢は第二の故郷、
大好きなまち
薬学を志すきっかけは何だったのでしょうか。
両親とも目が不自由で、父は自宅で鍼灸マッサージ院を営んでいました。朝から晩まで患者さんが家に出入りしている環境で育ちましたから、物心ついたころから将来は医療に関わる仕事をしたいと考えていました。薬学部を選んだのは、化学が好きで、血を見るのは苦手だったからです。
どんな学生でしたか。
私は第一松雲寮に入寮しました。入学前は、同級生と一緒に生活するのだろうと想像していたのですが、実際に入ってみると先輩方が住んでいます。関西出身の人が多く、皆で廊下でワイワイ話しているのを聞くと、ケンカでも始まったんじゃないかと最初は怖くて部屋から出られませんでした(笑)。

大学では軽音楽部に入り、自分のバンドを結成して音楽活動に明け暮れました。パートはドラムス。ブリティッシュロックが好きで、チャーリー・ワッツのスタイルを真似していました。大学の体育館や屋外の芝生でライブをしたり、金沢市内のライブスタジオで演奏したり。楽しかったですね。寮やサークルでいろんな世代の人と交流した経験は、その後社会に出てから自分の強みになりました。
学生時代から経営者になるという目標をお持ちだったのですか。
まったく考えていませんでしたね。その頃は薬剤師の就職先といえばほぼ製薬会社のMRか、病院薬剤師かの二択でした。私は患者さんのために仕事をしたいという気持ちが強かったので、両親のいる静岡にUターンし、総合病院の薬剤部に就職しました。
創業者の思いに共感
総合病院を経て、
ファーマライズHDに入社
そこからのキャリアパスを教えてください。
私が勤務していた病院に医薬分業の提案に来ていたのが、現在のファーマライズホールディングスの創業者である大野利美知でした。当時は医薬分業の初期で、分業化に慎重な医師が多かったのですが、大野は東京から静岡に足繁く通って医師と信頼関係を築き、病院を医薬分業へと導いたのです。

その会社に私が転職することになったわけです。もともと同じ場所でずっと働くより、知らない世界に飛び込んでいきたいというタイプです。そこに「病院のことを理解している薬剤師が門前薬局にいてくれると、病院も患者さんも安心だ」と院長が背中を押してくれ、大野が「一緒にやろう」と誘ってくれました。前職の病院とのマンツーマン分業に対応する調剤薬局が、私の新天地となりました。ファーマライズホールディングスとしては8つ目の店舗です。
秋山社長が入社された頃は、医薬分業が急速に進展していった時期です。
はい。私も薬剤師としてお店に立つ傍ら新規出店を任され、東京、静岡はもとより、愛知、三重、大阪と全国を奔走しました。あわせて地域に根差した中堅の調剤薬局を積極的にM&Aし、新潟、東北、北海道で経営基盤を固めていきました。並行して上場の準備にも携わりました。当社は2007年にジャスダックに上場を果たした後、2014年に東証二部に、その翌年に東証一部に上場し、2022年にプライム市場に移行しました。
全国を飛び回り、
新規出店とM&Aに携わる
調剤薬局としての強みや特徴はどんなところにあるのでしょうか。
いろいろありますが、ひとつは地域医療への貢献を目標に、ごく早い時期から在宅医療や施設調剤に力を入れて取り組んできた点です。

もうひとつは、「調剤薬局+ドラッグストア」「調剤薬局+コンビニ」「ドラッグストア+コンビニ」といったコラボ店舗を積極的に展開している点です。今でこそ調剤薬局とコンビニの一体型店舗は珍しくありませんが、業界の第一号は、2013年に千代田区にオープンした「ファミリーマート+ファーマライズ薬局末広町店」です。「処方箋を持っていない方にも気軽に立ち寄っていただける調剤薬局ができないか」と考えていたところ、独自にヘルスケア分野への進出を模索していたファミリーマートさんとご縁があり、話し合いを重ねて出店にこぎつけた経緯があります。
調剤薬局を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、オンライン化の対応も迫られています。
この業界に入って30年以上になりますが、これほど速いスピードで業界や社会が変化する時期は初めてです。変化の象徴が、2023年1月から運用開始となった電子処方箋です。電子処方箋が普及すれば、従来通り紙の処方箋を薬局に持参して相談するという方がいらっしゃる一方で、医師の診察から薬剤師の服薬指導、決済、薬の配送までオンラインで完結したいという方も増えるでしょう。そうした新しいニーズに応える基盤をしっかりと構築し、サービスを提供していきたいと思っています。

ファーマライズホールディングスとしては連結子会社12社を擁し、医療関連のITソリューション事業、カルテなど医学資料の保管・管理事業、薬剤師の派遣事業などを展開しています。今後も調剤薬局事業をコア事業としながら周辺分野をポートフォリオに組み込み、相乗効果を追求していきます。
心のふれあいを大切に
知識と優しさを持った
薬剤師に
北陸大学で薬学を学んでいる後輩へのエールにもなるかと思いますが、薬剤師が今後担うべき役割については、どのようにお考えですか。
当社が大切にしていることですが、薬局薬剤師として働く上では、地域に根付き、薬や健康などの相談に応じる「かかりつけ薬局・薬剤師」となることが絶対条件です。言葉でいうのは簡単ですが、実践するのは難しいものです。心のふれあいを大切に、知識と優しさを併せ持った薬剤師を目指してほしいと思います。
振り返って、秋山社長が学生時代に得たものとは何でしょうか。
ひとり暮らしを始めたということもあり、学生時代は人間形成の時期というか、その後の人生を豊かにするための基盤づくりになった時期だったと思います。学生時代の縁は一生の縁です。当時からずっと付き合いがあり、いろいろと相談に乗ってもらう人もいれば、社会に出てあらためて関わりを持つ人もいます。バンドメンバーとは家族ぐるみの付き合いが続いています。
最後に大学に期待することをお聞かせください。
北陸大学の学生・卒業生は、社会を生き抜く力に長けている印象です。私たちの時代は薬学部だけでしたが、学部が増え、大学全体で学びの内容がグローバルになった今は、世界へと羽ばたいていく人材がいてもおかしくありません。母校には今後も底力のある人材を輩出し続けてほしいと思います。
(2023年2月27日取材)