北陸大学同窓会 ロングインタビュー

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「楽しい社会をデザインする
アイデア実行企業」として
全国に、世界に通用する
サービスを生み出す
株式会社クラスコ
代表取締役社長
小村 典弘
「楽しい社会をデザインする
アイデア実行企業」として
全国に、世界に通用する
サービスを生み出す
株式会社クラスコ 代表取締役社長
小村 典弘
1975年石川県生まれ。1998年北陸大学法学部卒業。コンサルティング会社勤務を経て、1999年クラスコ(当時 タカラ不動産)に入社。2012年、賃料下落や空室率悪化など賃貸経営の問題を解決すべく、リノベーションブランド「Renotta(リノッタ)」を全国FCネットワークとしてリリース。2018年には全国の空室増加を解決するためのオーナーコンサルの窓口「満室の窓口」を開設。
保有資格はGPP(最上級不動産経営改善士)/CPM(米国不動産経営管理士)/相続アドバイザー/宅地建物取引士/FP技能士/証券外務員/賃貸住宅管理士/少額短期募集人資格/レジデンシャルセキュリティーアドバイザー/投資不動産取引士など。著書に『デザイン経営の実行 ブランド力、イノベーション力を劇的に向上させる源泉とは何か?』(現代書林)などがある。
オレンジ色の「CRASCO」の看板を金沢のまちで目にしたことがあるという人は多いはず。北陸大学法学部を卒業し家業を継いだ小村典弘氏は、昔ながらのまちの不動産屋を、グループ10社を擁する全国区の不動産会社へと押し上げました。ビジネスの展望とともに、学生時代の経験とキャリアの繋がりを語っていただきました。
クラスコは不動産業の枠にとどまらず、「暮らし」に関わるさまざまなサービスを提供されています。まずはその全容を教えてください。
クラスコの事業の中心は賃貸管理で、賃貸仲介専門店を石川県内に5店舗展開し、9年連続で石川県内仲介件数ナンバーワンを記録しています。このほか不動産の売買仲介、プロパンガス、注文住宅も扱っています。またグループ会社として、住宅の設計、企業ブランディング、プロモーションツールの制作などを行うデザイン会社や、不動産会社向けの経営・業務改善コンサルティングやIT システムの開発・販売などを行うコンサル会社も立ち上げています。社員教育や業務効率化などの課題をテクノロジーで解決する「不動産テック」や、デザインリノベーションで新築住宅にない価値を提供する「Renotta」などを含む、多彩なコンサルティング& テクノロジーのサービスは、北は北海道から南は沖縄まで全国累計6000店舗の企業にご利用いただいています。
不動産ビジネスを、
デザインとテクノロジーで
変革
地域の不動産屋を、小村社長の代で全国区の不動産会社に押し上げましたが、その経緯について教えてください。
1963年に私の祖父が「タカラ不動産商事」を創業し、私で3代目になります。私が入社したのは1999年ですが、物件資料はFAXが当たり前だったりと、業務のほとんどが紙と手作業のアナログの世界でした。旧態依然とした仕事の進め方を実感する場面が多かったですね。以前に働いていたコンサルティング会社はデザインにこだわっていてオフィスもきれいでしたから、職場環境の面でもギャップを感じました。そうしたところから社員のモチベーションと生産を上げて利益を出せる体質にしなければいけないと考え、デザインへの注力、そしてデジタルシフトによる社内業務の改革に取り組み始めました。特にこの10年くらいで大きく変わってきたなという実感があります。
2014年に社長に就任されましたが、事業承継のタイミングでの改革では、ご苦労もあったと聞いています。
そうですね。会社の歴史が長いほど、変化を嫌う傾向がどうしても出てきます。これまで仕事のやり方を任されていたベテラン社員の中には、改善を求められると退職という選択をされる方もいて、社長就任後の3年間で8割近くの社員が辞めました。一緒に働いていた社員が去っていくのは経営者としてとても残念で辛いことですし、お客様に迷惑をかけることにもなります。ただそれが、社内の業務改革を加速させるきっかけともなりました。

大きかったのは、ブランドの構築やイノベーションの創出にデザインの考え方を応用する「デザイン経営」を取り入れたことです。たとえばリノベーションブランド「Renotta」では、部屋一つひとつにコンセプトを設け、ライフスタイルを明確にしたデザイン空間を提供することで、家賃アップを実現しました。結果、「Renotta」は加盟店舗数全国600店舗(2022年1月)と、日本一のリノベーションブランドに成長しています。

業務のデジタルシフトについては、使えるものがなければ自社でアプリやシステムを開発しました。自社で運用し、実績を得られたものについては、同じ課題を抱える全国の不動産会社にサービスとして提供しています。最近では、不動業に特化したeラーニングシステムが、全国1300以上の不動産会社に使っていただくなど支持を広げています。これはもともと自社の人材研修のために開発したもので、社内では「クラスコユニバーシティー」として展開しています。eラーニングで学んだことをアウトプットする機会を設けることで、社員の成長の角度がぐっと上がりました。採用内定が決まった学生が入社前に宅建の資格を取る、といったことも可能です。
ブランディングにより、
人が集まってくる会社に
創業50周年の節目を迎えた2013年には、社名をタカラ不動産からクラスコに変更し、ロゴやコーポレートカラーを一新しました。これも社長が進めるデザイン経営の一環なのですね。
クラスコは「暮らす」と「フラスコ」を掛けあわせた造語です。化学の実験のように、新しく役立つアイデアやサービスを生み出す姿勢を表しました。社名変更にあわせてしっかりとしたブランディングを行い、社員に対しては、クラスコはどういった会社なのか、どんな価値をお客様に届けていくのか、といったビジョンを浸透させましたし、お客様に対しても、クラスコはこういう会社です、こういったことを行います、という約束を発信していきました。会社にデザインを入れると、ビジョンが内外に伝わりやすくなります。その成果が表れるかたちで、地域での認知度が高まり、お客様や良い人材が集まってくる会社になったと思います。
デザインで外側、内側の両方からブランド力を強化したんですね。小村社長は『デザイン経営の実行』という著書も出版されています。
アップルやダイソンといった世界の名だたる企業は、デザインを経営戦略の中心に据えることで業績を伸ばしています。日本では実際にデザイン経営を導入している企業はまだまだ少ない現状がありますが、デザインに投資した結果、利益が倍になったという事例もあります。

クラスコは社名変更をはじめ会社にデザインを入れたことで、一人あたりの生産性を2.5倍に高め、残業を50%カットし、年間休日を27日増やしました。直近の8年間で、売り上げは約2倍、利益は4倍に成長しています。当社のデザイン経営の実践事例やノウハウを広く発信することで、不動産に限らず広く企業経営に役立てていただければと思っています。
今振り返って「あの時間は、
かけがえのない時間だった」
と言える
家業を継いで業界をリードする経営者になるという意識は、大学生の頃からお持ちだったのですか。
いいえ、当時は将来のことは何も決めていなかったんです。定まった目標や夢のようなものがない中で、私にとっての大学時代は「将来自分は何をしたいのか」を探し、考える時間だったと思います。

当時は必要な単位を取れば、比較的自由に時間を使えましたから、興味がわいたことは何でもとことんやってみましたね。当たり前かもしれませんが、興味があること以外は興味はないんです(笑)。そういった延長線上で、会社に入っていろんな課題に直面した際に、「これを解決してやろう」と仕事に没頭できたのだと思います。

学生時代、「みんながこれをしているから自分もやる」では、何も身に付きません。自分が興味を持ったことに夢中になればいいんです。自由に使える時間が多い 大学生の特権です。私自身、今振り返って、北陸大学での4年間はかけがえのない時間だったと言えます。そして結果として、すべての体験が今の自分に活かされていると思います。
友人との交流の中で
視野を広げ、
アルバイトを
通じて「仕事のしくみ」への
理解を深める
大学時代の一番の思い出や、そこから得たものを教えてください。
私は法学部だったのですが、薬学部や外国語学部(当時)の学生と交流があったり、県外出身の友人もできたりして、視野も活動も広がりました。まとまった休みになると「北海道出身の友人がいるから、今度は北海道に行ってみよう」などと、クルマを運転して全国各地に足を延ばしました。金沢にいることの方が珍しかったかもしれません。今でも自分で運転して全国のお客様を訪問していますが、金沢・石川という枠にこだわらず事業を広げていく視野を持てたきっかけは、学生時代にあるように思います。

現在の北陸大学は、当時よりも留学生が増え、国際色豊かなキャンパスになっていると聞いています。これは、どんな業界であってもグローバル化から目をそらせない時代にあって、大学の大きなアドバンテージになります。北陸大学にはそうした環境をさらに充実させることを期待しますし、そこで学ぶ学生の皆さんには、さまざまな人、文化に接することで、視野や行動範囲を広げてほしいと思います。
学生時代の体験や学びで、現在のお仕事につながっていることはありますか。
大学時代、飲食の大手フランチャイズチェーンでのアルバイトをしていたのですが、業務フローがシンプルなので、学生バイトだけでスムーズに店舗を回せたり、未経験者でも厨房に入って即戦力で仕事ができたりといったことに驚きました。この経験は、不動産業務の改革を進める中で、個人のスキルに依存しない仕事のしくみをつくるという発想の土台になりました。

「自分でお金を稼ぎ、そのお金を使う」という経験も自分の中では大きくて、「働く」ということに対する価値観が養われました。これも大学生のうちに経験してほしいことのひとつです。
クラスコのミッションは、
「人生、楽しい人」を
増やすこと
小村社長がおっしゃるように、学生時代は無理に夢や目標を持つよりも、目の前にあるものを楽しみ、やりたいと思ったことをやることが良い経験になるのかもしれません。小村社長自身が経営やビジネスの上で今興味を持っていること、今後やりたいことを教えてください。
商品やサービスの面では、引き続き不動産業務のデジタルシフトを推進していきます。特に非対面接客や業務効率化のニーズも高まっていることから、窓の外の風景も含めてウォークスルー感覚で室内を内見できる不動産テックの提供に力を入れていきます。また、これまではデザイン性の面で賃貸物件の差別化を図ってきましたが、今後は機能の面での差別化にも取り組みます。

私たちのミッションは「人生、楽しい人」を増やすことです。 社員は不動産のプロフェッショナルとして、ひとつひとつの仕事の先に、お客様の、地域の、そして自分自身の「楽しい人生」はあるかということを常に考えています。2021年6月には本社をリニューアルし、新たなブランドメッセージとして「DO IDEA(アイデア実行)」を掲げました。 アイデアと実行力で、世界中に「人生、楽しい人」を増やしていきます。

クラスコは60周年を迎える老舗ですが、社員の平均年齢は28歳と若い世代が活躍しています。こんな会社は、他にないかもしれませんね。
今日はありがとうございました。
(2022年11月4日取材)