北陸大学同窓会 ロングインタビュー

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人生100年時代に寄り添う、
次世代の起業家薬剤師を
育成する
プラチナ薬局グループ
有限会社プラチナ
代表取締役
藤本 高弘
人生100年時代に寄り添う、
次世代の起業家薬剤師を
育成する
プラチナ薬局グループ 有限会社プラチナ
代表取締役
藤本 高弘
1962年生まれ、大阪府豊中市出身。北陸大学薬学部を卒業後、エーザイ株式会社に入社。営業・開発を経て、マルゼンうねの駅前薬局、青葉堂薬局大蓮店で店長を務めたあと、2005年に有限会社プラチナを設立。グロ-ビス経営大学院で経営戦略・マーケティングなどを学び、地域住民に活用される健康情報発信基地(ヘルスケアプロショップ)を目指す。
北陸大学薬学部を卒業後、製薬会社勤務を経て、大阪・兵庫にプラチナ薬局グループ(有限会社プラチナ)を創業。医薬分業の進展とともに薬局経営を進化させ、現在は起業家薬剤師の育成にも注力している藤本高弘氏にお話を伺いました。
藤本さんは大阪・兵庫でプラチナ薬局グループを展開されていますが、大学卒業から創業に至るまでの経緯を教えていただけますか。
北陸大学薬学部を卒業後、製薬会社のエーザイ株式会社に入社し、MRと開発の仕事を経験しました。そろそろ薬剤師として現場の仕事にも携わりたいと思っていたところ、平成7年に阪神・淡路大震災が起き、実家の薬局も経済的に大きなダメージを受けたんです。母親の病気のこともありましたので今が帰り時だと思い、会社を辞めて家業の薬局経営に携わりました。
第1期生の先輩を訪ね、
医薬分業時代を見据えた
薬局経営へ
私が実家の薬局を継いだ頃は、今のような医薬分業が進む前です。患者さんが処方箋を持って訪れてくれる薬局ではなく、トイレロールやティッシュ、シャンプー、化粧品なども扱っている街の薬局でした。今のドラッグストアの走りのようなものです。それから10年ほど経ち、医薬分業が関西の方でもかなり進み、街の薬局も処方箋を扱う時代になりました。

でも、経営方針が父親と合わなかったんですね(笑)。そこで、薬学部の第1期生で私も所属していたサッカー部を創設された方が青葉堂薬局を経営されていたので、これからの薬局経営についてご相談しました。その後、お店ひとつ暖簾分けしていただき、個人事業として青葉堂薬局大蓮店を開いたのが始まりです。

その頃、地元でも医師会の先生方から医薬分業にはメリットがあると聞いていましたし、先生方から「うちの方でも薬局をやってくれないか」とお話をいただき、自前の薬局として2店舗を展開しました。
これがプラチナ薬局の始まりです。
大学卒業後は、
製薬会社のMRとして活躍
まさに薬局を取り巻く社会の変化とともに動いてこられたわけですね。大学卒業後、製薬会社に入社された理由を教えてください。
当時は、東京の企業に憧れがありましてね(笑)。面接に行くのに企業が飛行機代を出してくれた時代でしたので、あまり行ったことのなかった東京に行ってみたいと思ったんです。大学で白衣を着て実験や実習をたくさん経験しましたが、自分にはどうも向いてないと感じていたことも製薬会社を選んだ理由です。
それから、学生時代に片町の飲食店でアルバイトをしていたのですが、そのお店にお洒落な紳士と格好良いお兄さんがやって来て、一緒にお酒を飲んだり歌を歌ったりしているのをよく見ていました。「あの方たちはどういう職業の方なんですかね?」とお店の人に聞くと、「お医者さんと製薬会社の営業の方だよ」と言われて憧れました。自分も白衣を着て薬を扱うよりも、ああいう風になりたいと思ったんです。
夏はサーフィン、冬はスキー。
学業と遊びに夢中で
取り組んだ学生時代
藤本さんは大阪のご出身ですが、金沢で過ごした学生時代の思い出を教えてください。
学生時代は、人生で最も勉強したと思います。特に国家試験の前は寝ずに勉強していましたね。でも、試験の前に詰め込み式に勉強したのは、普段それほど勉強していなかったからなのですが(笑)。

勉強以外では、サッカー部に所属していましたし、夏は金石でサーフィン、冬は一里野でスキーを楽しんだのも思い出です。特に冬は、白衣の下にスキーのアンダーウェアを着て、実習が終わった後に友達の車で一里野へ行き、夕方からナイターで滑るのが楽しみでしたね。毎年、シーズンが来るごとに30回くらい行っていたと思います。そのおかげで、雪道の運転も随分上手くなりました。
住まいは、1年の時は松雲会館(学生寮)で、2年になってから涌波のアパートに移りました。寮生活では、関西と関東で分かれていましたが、学年が上がるごとにみんなと仲良くなりました。
そこで今の家内(北陸大学の同級生)と出会い7年後に結婚しました。
学生時代の恩師の教えで今に繋がっていることや役立っていることがあれば教えてください。
当時の北野学長には、日本酒の飲み方を教えてもらいました(笑)。それから千葉大学から来られた生理化学の毛利先生の授業がすごく面白かったことを覚えています。ダイエットをするためにはどういったものを摂取したら良いとか、TCAサイクルをどうやって回したら良いとか、痩せるためにはどうすれば良いとか、筋肉を作るためにはどうすれば良いとか、生理化学の基礎を毛利先生に教えていただきました。試験の時には先生の問いに対して答案用紙の裏側にまでTCAサイクルや電子伝達系についてびっしり書いて合格をいただきました。今もその頃学んだ知識が役立っています。なぜか研究室は松井先生率いる生物化学教室でした。
母校の後輩に伝えたい、
これからの薬局のあり方
藤本さんは、北陸大学薬学部の非常勤講師として学生に講義もされています。これからの薬局のあり方について、想いをお聞かせいただけますか。
薬学部の1年生向けの講義で「薬局経営」をテーマに10年間ほどお話をさせていただく機会がありました。その時にも学生に話した内容になりますが、日本初のコンビニが誕生した昭和49年は、日本の医薬分業が始まった年でもあります。コンビニはその頃からどんどん進化していきましたが、その一方で薬局はあまり代わり映えしない時代が続きました。

その後、医薬分業が進んだ結果、処方箋が薬局に入る入場券みたいになってしまいました。でも、昔の薬局は商店街の中にあり、病気のことでも何でも気軽に相談しに行けるような身近な存在だったと思います。薬剤師は本来、薬のことだけでなく健康に関する知識も豊富にあるので、その知的財産をもっと活かしていかなければいけません。コミュニケーション能力を持った薬剤師が店舗に出て、いろいろな人の悩み事を聞いて、解決までできなくてもどこかに繋げられるような役割を担っていかなければいけないと考えています。
プラチナのように、
いつまでもサビのこない
健康をサポートする薬局を
目指して
プラチナ薬局グループでは、地域に信頼される「あなたのお気にいり薬局」というコンセプトを提唱されています。“お気にいり”になっていただくためには、何が大切でしょうか。
今は何でもGoogle検索ができて、気に入ったものがあればブックマークをつけたり、お気に入りボックスに入れたりする時代ですよね。私たちは、地域住民の方々に寄り添って、悩んでいる方や涙を流している方、下を向いている方に少しでも前向きに、笑顔になっていただけるような薬局でありたいと考えています。社名に付けた「プラチナ」のように、いつまでもサビのこない健康をサポートできる薬局でありたいですね。

当社では「プラチナアカデミー」という学びの場をつくり、これから薬局経営者になりたい方を募り、起業家薬剤師を育成する取り組みも行っています。人生100年時代に寄り添える薬剤師を育てていきたいです。
プラチナ(白金)の石言葉は「絆」だそうですね。
プラチナ薬局は、兵庫県川辺郡猪名川町白金という地域で誕生しました。この白金地区では、老人会などでも「プラチナ」という言葉をよく使っています。地域の人に身近に感じてもらうためにも「プラチナ薬局」という名前にしました。地域のみなさんとの絆を大事にしたいです。
社会のニーズに応じて
薬局もアップデート。
地域の人に寄り添う
身近な薬局へ
今後のビジョンについてお聞かせいただけますか。
令和4年度の調剤報酬改定により、これからは対人業務に対する報酬が手厚くなります。パンデミックの時に抗原検査を積極的に行ったり、支援物資を仕入れて行政に届けたり、そういった業務に対する報酬が手厚くなります。つまり、地域住民に貢献する業務がもっと認められる時代になるのです。これは、現代の薬局の機能に昔の薬局が持っていたような機能を組み合わせて、薬局はバージョンアップしていかなければならないということだと受け止めています。対人業務にシフトすることで対価が上がるのは、薬局にとって一つのターニングポイントになるでしょう。処方箋がないと入れないような薬局ではなく、地域住民の方が気軽に立ち寄れるようなやさしい薬局になっていく必要があります。
コロナ禍で以前よりも、薬局が担う役割が増えている印象があります。地域の方からの相談事も増えているのでしょうか。
そうですね。プラチナ薬局イオンモール猪名川店は小児科専門の薬局ですが、今はオンラインで365日24時間薬剤師とつながり、相談できるシステムも整っています。薬局のDX戦略もこれからかなり進んでいくでしょう。お母さん方はお子さんのお薬のことで悩みを抱えている方もたくさんいらっしゃいます。お医者さんには少し相談しにくいことでもチャットを使えばいつでも薬剤師に気軽に相談できますからね。
地域の人の健康を応援する
「健康サポート薬剤師」を
育てたい
最後に、これから薬学部を巣立つ後輩のみなさんに向けてのメッセージをお願いします。
これからの薬剤師さんに期待するのは、薬の専門知識だけではなく「対人能力」です。人に寄り添うためのカウンセリング能力や心理学みたいなことも学んでもらいたいと思っています。薬剤師は薬のことはよく知っていますが、いろいろな悩みを抱える人と接する仕事でもあります。薬を通じて関係を構築するのですから、その薬をきっかけにその方の健康をサポートする「健康サポート薬剤師」になっていただきたいと思います。

健康サポート薬剤師は、禁煙相談もできますし、お子さんの発育の悩みを抱えるお母さんの相談にも応じられます。これからはフレイル予防や認知症の早期発見なども大事なテーマです。コロナ禍で自殺を考える人が増えましたが、そういった悩みを抱える方のゲートキーパーにもなれますし、薬物乱用防止の役割も担います。アスリートに対しては、“うっかりドーピング”を防止するアンチドーピングの役割も担います。薬剤師としての幅広い知見に基づき、人々の困りごとにフォーカスし、その問題解決ができなくても他職種と連携して問題解決につなげることができるように、コミュニケーション能力と広い視野を備えた薬剤師になっていただきたいと思います。
今日はありがとうございました。
(2022年3月25日取材)