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生徒を幸せにできる英語の先生育てたい

国際コミュニケーション学部 国際コミュニケーション学科

川村 拓也 助教

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  • #英語教育

PROFILE

国際コミュニケーション学部 国際コミュニケーション学科

川村 拓也 助教

趣味 サッカー、乃木坂46、パオパオチャンネル

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Q.英語に魅力を感じたきっかけを教えてください。

5文型に魅力を感じ

親の転勤で4歳の時からインドネシアに住んでいたのですが、通っていた日本人学校で英語の授業が小学1年からあったんですよね。で、小学3年で日本に帰ってきたんですけど、その時点で周りよりちょっとは英語ができて。負けず嫌いということもあり、1回できると思ったら、できなくなりたくないという意識が強く働いて、それから一生懸命勉強して、英語が得意になりました。これが英語にのめり込んだきっかけと言えばきっかけでしょうか。

でも、本当に英語に魅力を感じ始めたのは高校生の頃。みなさん高校で分厚い文法書を使っていたと思うのですが、僕、文法書がすごく大好きで。「なるほど、こんなルールで言葉が動いているんだ」ってワクワクしました 。言葉は無限にもかかわらず、全部ルールに基づいてしゃべっている。5文型って習ったと思うけど、無限に文を作れるのにたった5個に分類できるなんてすごいなって。そういうところに魅力を感じたのが高校時代ですね。ちなみに今は5文型の限界とか色々知って、難しい世界だなーと思っています。

Q.教員になりたいと思ったきっかけは?

英語の先生を育てたい

教員を広く捉えると、小学生くらいから学校の先生になりたかったです 。結構良い先生に恵まれて、楽しそうな仕事だなって。あとは先生が持っている赤ペンが羨ましくて、あれで丸つけをしてみたいなという憧れもあって(笑)

中高では英語が得意だったんですけど、英語の授業があまり好きじゃなくて。多分、得意だったからそんなに聞かなくて良かったのも正直あるんですけど、なんでこんなにつまらない授業をするんだろうって思っていました。特に高校に入ってからは、文法の魅力に取り憑かれていたので、自分ならこんなに面白く分かりやすく話せるのに、授業は超つまらないとめっちゃ思っていて、なら僕がやろうと思って大学で英語教育を専攻しました。

ところが・・・英語教育の専攻だと当然周りの同期も英語の先生も目指しているのですが、周りも英語の魅力を伝えきれていないというか、英語を教えることに熱量を持ってない人が多かったんですよね。それが事実かどうかは微妙で、少なくとも当時の僕にはそう見えていた、ということですけど。 大学の教員養成の授業も、本当にこれで教えるのが上手になるのか?と違和感を持ち始めて。もしかして自分が中高で教員をやるよりも、大学で英語の先生を育てる仕事をした方がいいんじゃないか?と思うようになって、それで大学教員を目指すようになりました。現在は教職課程で英語教員を養成しているので、大変ありがたいことに、運と人に大いに恵まれて、 思い描いていた道を歩んでいます。今思うと学生時代の自分はとんだ思い上がりをしてたと思いますけどね。教員になるのも、教員を育てるのも大変なことです。

Q.先生が考える英語の魅力って何ですか?

実はいま・・・

何周もぐるぐると考えた問題ですね。大学生の時に思っていたのはやっぱり文法的な部分で、言葉ってこんなに法則があって、綺麗に体系化されている美しさがあるのに、みんな文法ってつまらないという固定観念がありすぎる。当時はこんなことをよく思っていたのですが、今はどうかな?実はいま僕はそんなに英語好きじゃないんですよ(笑)。

Q.どういうことですか?

英語には負の歴史も

今の日本って英語が好きって言いやすい環境にあるじゃないですか。言語は英語以外にも中国語やスペイン語、ドイツ語など色々あるけど、学校で学ぶのはやっぱり英語。英語が優れてる言語とかではなくて、たまたまアメリカやイギリスの言語ということが影響していたり。

英語って植民地という負の歴史もあるわけで、手放しに英語っていいよねって言うのは、そういう歴史を無視している感じがするんですよね。戦いに負けて、英語を話せるようにならざるを得なかった人がたくさんいるわけで。 だから、英語の魅力は?と聞かれると、なんか「英語ができること=幸せなこと」みたいな伝わり方もしてしまいそうであまり上手く言葉にできないんです。むしろ、英語ができなくても普通に学校で勉強できて、普通に生きていけるって、日本ってそういう面ではすごく幸せな国とも言えると思います。 英語が必要ない環境だから英語の勉強がしづらくて、英語を話す国に比べて不利だという人の気持ちももちろん分かります。それに日本もだいぶ国内がグローバル化してきて、純粋に「日本語だけ」で成り立っている国とは全く言えないんですけどね。

ただ、英語に限らず、外国語を学ぶことの魅力はやっぱり、世界が少し広がったり、物の見方が変わったりするところにあると思う。英語については、さっき話した負の歴史が一応あるので、それを知った上で英語ができるようになった人間としては、英語の学びを通して幸せになる人を増やしていく、それが使命だと思っています。

Q.大学院はバーミンガム大学ですが、選んだ理由を教えてください。

比喩表現の世界的権威

大学院に行くことは学部3年生までには 決めていました。その時はすでに大学教員になりたかったのですが、僕のいた静岡大学の大学院を出て大学教員 になっている人ってほとんどいなくて、このままだと大学教員 として生きていけないのではないかという不安があったんですね。ただ、留学したいという気持ちはあまりなくて、日本で勉強できることたくさんあるから日本にいようと思っていたのですが、それは海外に行くことの怖さを知りたくないだけなんじゃないかとだんだん思い始めて。自分に負い目を感じ始めたので、やっぱり大学院で海外に行こうと思ったのがきっかけです。

バーミンガム大学を選んだのは、卒論で比喩の研究をしていたのですが、比喩表現の研究で世界的に有名な先生がバーミンガム大学にいて、その先生のところで修士論文を書けたらいいなと思って選びました。

Q.大学院の生活はどうでしたか?

人生で一番忙しかった。でも・・・

イギリスの修士課程って1年で終わるんですよ。日本だと2年かかるので、シンプルに倍忙しかったですね。当然、英語ネイティブの学生も同じ学科にいるので、その人たちと同じように課題をこなさなければいけない。授業数は多くないんですけど、毎回20〜30ページ、多い時で50ページの英語の文献を渡されて、じゃあ次回までに読んできてね、これを元にディスカッションするからって。これがずっと続くので、もう勉強するしかなかった。だから、バーミンガム大学はコンビニは夜閉まるけど、図書館は24時間オープン。朝は午前4時に起きて、5時には図書館に行って、それから授業までひたすら勉強して、授業後も夜6時、7時くらいまで図書館にこもって勉強して、9 時に寝て4 時に起きての繰り返し。これが半年続いて、残りの半年は修士論文。多分、この頃が人生で一番忙しかったですね。でも、今思うとめちゃくちゃ幸せな時間でもありました。あんなに勉強できる時間ってもう人生で二度と来ないんじゃないかって思います。イギリスの冬は本当に鬱になるぐらい寒くて暗いし、その上めっちゃ忙しくて大変だったんですけど、その分、人の優しさにも沢山触れました。

Q.恩師と呼べる人はいますか?

逃げ込んだ指導教員の研究室

恩師というと、やっぱり静岡大学で出会った指導教員ですね。ただ、僕があまりその人を師匠と言い過ぎると、僕が何かやらかした時にその人にも責任が行ってしまうので、あまり弟子だとは言わないようにしています(笑)でも、明らかに今の僕をつくってくれた一番大きな存在です。

僕は今、研究室を開放 していて、学生がいつでも入ってこられるようにしているんですよ。菓子も置いたりして。なんで研究室を開こうと思ったかというと、大学1年生の時、さっき話したように周りへの違和感があって、うまくやれなかったんですよね。そこで逃げ込んだ先が指導教員の研究室でした。そこで色んな話をしたり、漫画を読ませてもらったりして、そのうちに本棚にあった専門書が気になり始めて。うまく誘導されたのかもしれませんね(笑)こんな先生が全国にもっといれば、良い先生がたくさん育つのにと思っていました。その人の背中を追いかけて今日に至っています。

Q.大学の教員紹介のページ(*)で、学校の英語教育はあまりにも多くの不幸を生み出しているように見えると指摘しています。研究テーマの中に教員養成がありますが、研究をしていく上で大切だと思っていること教えてください。

英語の先生は生徒を幸せにできる存在であってほしい

英語って、授業を受けたけど話せないって問題がありますよね。他の科目だと、できなくてもそんなに文句は言われないけど、英語だけは別。例えば、体育をあんなにやったのに、なんで逆上がりができないのかとは言われないですよね。僕は元素の周期表とか全然覚えてないけど辛くないし、徳川将軍も全員覚えてないけどまったく困らない。

でも、英語だけは普段使ってない人でも、できないとコンプレックスに感じてしまう。それって、英語が個人の資質・能力に過度に 結び付けられているからだと思うんですよ。英語ができるようにならなかったことや、英語ができるようになりたいと思わなかったことが、不幸を感じさせてしまう。ある科目が苦手で、その授業時間が辛いってどの科目もあると思うけど、英語だけは卒業後も不幸の歴史として残ってしまう。

だから、英語の先生は授業で生徒たちを幸せにできる存在であってほしい。それは、英語ができるようになったという幸せでもいいし、英語はよく分からないけど、授業は楽しかったという思い出を残す先生でもいい。こんなことを言うと怒る先生も絶対いるんですけど、学校で英語があまり得意にならなかった人だって、学校を卒業した後の人生の方が長いんだから、その時に「英語は嫌い」「英語はつまらない」という負の感情が残っているより、「英語の授業楽しかったな」「英語の先生楽しそうだったな」みたいな思い出が残っている方が、将来英語が必要な時に頑張れるんじゃない?って思います。で、学校の授業って実はちゃんと基礎を教えてくれてるから、いざ英語の勉強を始めてみたら、学校で勉強した基礎が役に立つじゃんって思う人も多いと思います。いや、思わなくてもいいんですけど、実際役に立つと思います。

僕の英語の授業、毎回歌を歌うんですよ。何曲か洋楽を練習して、今期は8曲くらいかな、学生と一緒に歌う。そうすると、みんなYouTubeでもいっぱい聞くようになるんですよね。その結果、授業でやった曲がお店で流れていたら、いつもだったらBGMとして聞き流していたのに、歌えちゃうから口ずさんだり、カラオケで歌ったり。僕はそれでいいと思う。だって、幸せなんだから。

英語教育の研究者の多くは、じゃあ、その歌うという活動を通して、どんな英語力が身についたんですか?と問うてくるんですよね。英語力がつくことがあたかも究極の幸せかのように。でも、もう幸せなんだから、それで良くない?って僕は思 います。

もちろん英語力がつくような選曲は一応してはしていますよ。よく使う文法が出てくる曲を選んだりしているけど、本人たちが歌えて幸せならそれでいいんじゃないかって。 なんてことを言いながら、僕の授業が一番楽しくて、一番英語の力も身につくというところを地道に目指しています。

教員養成で一つだけ気をつけていることは、自分と同じ価値観の「ミニ川村」を育てたいわけじゃないので、そこは注意しています。僕はいま話したような価値観で英語の教師をしているけど、同じ価値観の子だけをここから送り出すというのは違う。

いま英語の教職過程で英語の教え方を教える先生って僕しかいないんですよ。だから、どうしても僕の価値観に染まっていく学生もいる 。色々見た上でその価値観に共感してくれるのならいいけど、たまたま僕に出会ったからその価値観になっているだけなのかなと思うと少し悩みますね。

(*)https://www.hokuriku-u.ac.jp/about/teacher/t-kawamura.html

Q.研究テーマについて教えてください。また、今後取り組んでいきたいテーマはありますか?

どこに赴任しても安心して若手が育つ学校に

研究テーマはやっぱりいかに良い先生を育てるかとか、それが真ん中にあります。教員養成のあり方はもっと変わらなければいけないという問題意識があるので。今後、研究したいテーマは、一言で言えば 「 教員が幸せに働くには」ですね。

学校ってブラックな 職場と言われているじゃないですか。あれは多くの人にとって事実なので仕方ないのですが、学校の先生って子どものためなら、どこまでも頑張ってしまう。なので、自らブラックな環境に追い込んでしまうところがあるんですよね。で、その頑張りに歯止めが効かなくなると、いつの間にか体が壊れている。

そういった職場環境だからこそ、若手の教員にとっては、支えてくれる先輩との出会いがすごく重要になってくる。でも、良い先輩教員に出会えるかって今のところ運。だったら、学校で働いている中堅・ベテランになる先生が若手と接する時にはどういうふうにしたら良いかを一緒に考えて広げていくしかない。そうすれば、何十年先になるか分からないけど、どこの学校に赴任しても安心して若手が育つ学校が作れるんじゃないかって、そんな研究をしていきたいと思っています。

今の学生たちへ

MESSAGE

先生が北陸大学の学生に想うことや、
高校生へ伝えたい想いなどをお聞きしました。

MESSAGE.1

良い授業で幸せになる学生が1人でも増えればいい

北陸大学の学生へ

君たちの子ども世代とか孫世代が英語の授業を通じてちょっとでも幸せになれるように僕は頑張りますということを言いたいですね。あと、 その人にとっての良い授業に出会って幸せになる学生が 1人でも増えたらいいなと思っています。

インタビュアーコメント

INTERVIEWER COMMENT

実際にインタビューした学生が、
先生の新たな発見や魅力について記録します。

INTERVIEWER COMMENT

英語は、今の子供達全員が習う言語だからこそ、先生が仰っていた「不幸を生み出しているように見える」はその通りだと感じました。私もその1人だったので、先生の一つの想いがこの先教員になる人達に受け継がれ、今の英語教育の構造が変わっていくことができたらいいなと思いました。

INTERVIEWER 石川 里奈 平口 夏菜 島谷 啓汰

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