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母語習得のミステリーを解明へ

国際コミュニケーション学部 国際コミュニケーション学科

島田 博行 准教授

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  • #英語学
  • #第一言語獲得

PROFILE

国際コミュニケーション学部 国際コミュニケーション学科

島田 博行 准教授

趣味 音楽鑑賞

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Q.出身大学を選んだ理由を教えてください。

3つの母校

母校は3つあって、学部は明治学院大学文学部英文学科。その後、上智大学大学院の博士前期課程に進学して、後期課程は東京大学大学院に行きました。本当は第一志望は別の大学だったのですが、受験に失敗してしまって。

現役の時に明治学院大学は受かっていたのですが、別の大学に行きたくて浪人したんですよね。で、再度受験したらこれまた明治学院大学しか受からなくて(苦笑)で、もう行くところがなかったので、明治学院大学に進学しました。

英文学科にしたのは、英語が好きだったから。明治学院大学は英文学科が有名な大学のひとつだったので、高校の先生からも勧められたんですよね。

Q.英語を好きになったきっかけは?

幼稚園で英語に触れる

私が通っていた幼稚園で英語教育があって、中学校に入る前から英語に触れる環境にあったからでしょうか。

Q.幼稚園から英語を学んでいたのですか?

英語の先生と仲良くなりたい

幼稚園の先生が主催する英会話学校みたいなのがあって、気がついたらそこに通っていたんですよね。で、来ていた英語の先生と仲良く遊びたい、そんな思いが英語を学ぶきっかけになったと思います。

Q.研究テーマについて教えてください。

人はどうやって言葉を獲得していくのか

研究テーマは『子どもの言語習得』です。簡単に言うと、人はどうやって言葉を獲得していくのか、特に赤ちゃんはどうやって言葉を身につけるのかという研究をしています。あまり研究者がいない分野ですね。実はこの学問の師匠が明治学院大学にいた先生です。なので、大学受験に失敗したから今の私があって、受験に成功していたら言語習得の研究者にはなっていなかったんじゃないかって思っています。

Q.研究成果は?

『Language Acquisition』に論文掲載

2021年に津田塾大学の郷路拓也先生との共著論文『On the source of children’s conjunctive interpretation of disjunction: Scope, strengthening, or both?』が『Language Acquisition』という学術雑誌に掲載されました。この雑誌は業界の中では有名で、研究者であれば知らない人はいない雑誌なので、そこに掲載されたことは大きな実績となりました。この頃から査読依頼も来るようになり、今後もしっかり研究を続けていきたいと思います。

Q.研究テーマの中でも今後、特に取り組んでいきたいテーマはありますか?

子どもの言語習得をベースに

今、博士論文を執筆中で、今お話した学術雑誌に載った内容を発展させています。やはり基本は言語習得、特に子どもの言語習得。私の場合は日本人ですから、やはり日本語を母語とする子どもの言語習得ですね。特に数を表すような言葉、例えば『沢山』とか『全部』というような言葉と、否定を表すような言葉、例えば日本語で『全部のリンゴを食べなかった』といった場合は、1つも食べなかったという意味と、一部は食べたけど全部は食べきれなかったみたいな意味の両方ありますよね。じゃあ子ども達ってそういう解釈をいつから大人のようにできるのかみたいなことを研究しています。

Q.なぜ大学院に行こうと思ったのですか?

英語の先生になるための勉強時間確保

大学3年生の終わりくらいまでは何も考えてなかったんですよね。で、3年生の終わりくらいになると就職活動があるじゃないですか。当時、英語が好きというのと英語を使う仕事が英語の先生しか思い浮かばなくて、私は英語の先生になりたかった。ただ、コンビニでアルバイトして楽器を担いでいた人間なので、まともに英語はできるわけがない。で、大学院に行けば勉強する時間がちょっと延びると安易に考えて大学院に行こうと。なので、当時は研究者というよりは英語の先生になりたかった。

それで上智大学の大学院に進学するわけですが、なんで上智大学だったのかと言うと、私の恩師の知り合いの言語学の先生が上智大学にいたから。この頃からですかね、研究がちょっと面白いと思い始めたのは。

Q.博士課程に進んだのはなぜでしょうか?

研究者として1人立ちしたかったけど

私の師匠は修士論文は人に頼って完成させてもいいという考え方を持っていたので、修士論文は先生の力も借りながら完成させたのですが、学生ながら悔しかった。1人立ちできなかったことが悔しかった。で、博士課程に行っても英語の先生になれるチャンスはまだあるのだから、(1人立ちできるよう)もう少し研究をやってみようということで、博士課程に行きました。

ただ博士課程では挫折して、満期退学になって。満期退学というのは、いなければいけない年数はいて、授業は一通りとったけど、博士論文を完成させることができなかった。大学で言うと、卒業論文だけ書いてないイメージ。なんでこうなったのかと言うと、頭の良い人が周りにいすぎて研究者として生きていける気がしなかったんですね。さすがに限界だなと。で、実は一度、まったく関係のない一般企業に就職しました。

Q.一般企業に。

改めて感じた研究の面白さ

そう。一般企業では2年ほど働いたのですが、そこで気づいたのが、やっぱり私は教育に携わりたい、研究をしたいと。で、仕事を辞めて、明治学院大学の師匠にそのことを報告しに行ったら、彼が私に研究の相談をしてきたんですよね。当時、私は研究者としてはまだまだだったけど、自分の経験とか、積み重ねた知識を元に相談に乗ったら、それが楽しかった。周りの人がすごすぎて一時は嫌になったけど、研究って面白いんだなと改めて思って。そんな時に明治学院大学で非常勤講師の募集が出て、ダメ元で応募したら採用してもらえて、大学教員としての一歩を踏み出すことになりました。それが31歳ぐらいの頃。もう後がない、もう研究者として生きていくしかないと覚悟を決めて、それから研究を一生懸命やっていたら、いつの間にか悩みが消えていたというか、ある程度は一人で研究ができるようになっていました。

Q.研究テーマを高校生にもわかりやすくお願いします。

主語・述語を知らずに言葉を身につける赤ちゃん

外国語学習って難しいじゃないですか。英語って難しいですよね。でも、みんな赤ちゃんの頃に身につけた言葉って難しかったと思った人っていないはずなんですよね。なんで赤ちゃんは主語だとか述語だとか小難しい文法用語なんか知らないのに言語が簡単に身につけられて、一方で、いろんなことができるようになっている大人は言語習得の能力が衰えているのか。赤ちゃんの頭の中で一体何が起こっているのか、そのミステリーに取り組むのが言語習得の研究者です。

本当だったら知らない分だけ何もできないのが普通なわけですね。例えば、九九を知らない子たちが数学ができないのは当たり前で、それは基礎を知らないからだけど、母語の習得に関してはむしろ逆で赤ちゃんの時の方ができる、そんなミステリーを研究しています。

Q.赤ちゃんの言語習得の仕組みを解明できれば、大人の語学習得にも応用できますか?

母語の言語習得は年齢に限界も

今小学校で英語教育が導入されているのは早い段階でやればやるほどいいはずだという理念があるからですが、一方で言語習得に関しては『臨界期』と呼ばれる言葉があって、例えば生まれたての鳥の子どもは初めて見た動く生き物を親だと思うという習性がありますよね。しかし、一定の日数が経つと他の生き物を見ても親だとは認識しなくなります。それと同じことが実はいくつかの動物にもあって、人間の言語もそれがあると考えられています。つまり、子どもが母語として身につけられるのはやっぱり年齢に限界がある可能性がある。生物学的なメカニズムのようなものが働いている可能性がある。

私はそのような考え方の立場を取っているのですが、例えば子どもの歯が抜けて大人の歯が生えてくるのって努力したからどうこうという話じゃないですよね。いわゆる遺伝子の中にそういう設計図が組み込まれていて、ある一定の年齢になったら、子どもの歯がグラグラして、大人の歯が勝手に生えてくる。それは僕らがコントロールできる話では基本的にはないわけですよね。これと同じように、母語の獲得もおそらく僕らがコントロールできない生物学的なメカニズムが絡んでいる可能性がある。

Q.赤ちゃんに英語の音楽を聴かせたら、英語はしゃべるようになる?

母語と圧倒的に違う接触時間

多分ならないでしょうね。よくどうやったらバイリンガルになれますか?と聞かれるのですが、母語の場合は寝ている時間も含めて、一日中その言語に触れ続けられるような環境なんですよね。それに対して、例えば英語の授業を考えてみてください。中学校・高校で週に何時間英語に触れるかと言えば、まあ両手・両足に収まる程度の時間ですよね。週何時間やっただけで母語のように獲得できると考える方が無茶な話だと思います。

母語の獲得と第2言語の習得とでは雲泥の差がある。特別な何かが母語の獲得にはやはりあるんじゃないかなと思っています。

今の学生たちへ

MESSAGE

先生が北陸大学の学生に想うことや、
高校生へ伝えたい想いなどをお聞きしました。

MESSAGE.1

夢を追いかけて!

北陸大学の学生へ

夢を追いかけてほしいと思います。私は夢を追いかけることを一回諦めて人よりも遠回りをしてしまったけど、完全に諦めてしまったら今の道はなかった。どの分野でもやってやれないことはない。多少時間がかかっても、夢があるのであれば追いかけてほしい。

夢を追いかけることはリスクを背負うことでもあります。私も北陸大学に来るまでは非常勤講師を続けていました。非常勤講師は非正規雇用なので、やはり不安なんですよね。いつになったら安定した仕事に就けるのかという不安と戦わなければいけないのですが、でも諦めたらそこでお終いなんですよね。今はとりあえず大学に来たという学生が多いと思います。私もそうでした。今の時代、それが普通なんだと思う。なので、夢を探すことから始めてもいい。やりたいことが見つかったら、それは宝物になるはず。

MESSAGE.2

チャレンジすれば奇跡も

北陸大学の学生へ

頑張ったら人並み以上の何かができるポテンシャルを持っているのに、自分はこういうのは得意じゃないからとか挑戦しない学生も確かにいます。私もそうですけど、大学受験に失敗した人間が大学の教員になって、いま研究をしているわけです。誰にでも奇跡は訪れるけど、チャレンジしないとその奇跡は起こらない。チャレンジすることをぜひしてほしい

MESSAGE.3

成長するという志を!

高校生へ

大学4年間でどう成長したいかというビジョンを描いてほしいと思います。『とりあえず大学生になっちゃった』ではなくて、『大学生になったんだからこうなろう、こう成長しよう』みたいな野望でもいいので、そういうものを持ってほしいと思います。例えば勉強もそんなに得意じゃないと思っている高校生もきっといると思うんですね。でも勉強というのはやればできるし、やればいいだけの話。それを教える先生が北陸大学にいるので、できないから諦めるんじゃなくてできるようにするんだ、成長するんだという志をぜひ持ってもらえたら、きっと成長できるんじゃないかなと思います。

インタビュアーコメント

INTERVIEWER COMMENT

実際にインタビューした学生が、
先生の新たな発見や魅力について記録します。

INTERVIEWER COMMENT

赤ちゃんはどうやって言葉を覚えていくのか。そのミステリーを解明したいという研究者としての強い思いがひしひしと伝わったインタビューでした。大学受験に失敗したからこそ今があるとおっしゃっていましたが、その裏には失敗を成功に変える努力があったと感じました。私も失敗を恐れずにチャレンジしていきたいと思います。

INTERVIEWER 松田 聡 山崎 愛奈

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