近年、人工知能(AI)は日々発展してきており、多くの人が日常生活で使用するように、その活用範囲は急速に広がっています。教育の現場においても、教材作成の支援など、AIの導入に対する期待は高まっています。学校現場では教師の長時間労働や多様化する業務負担が深刻な社会問題となっているため、教育現場へのAIの導入はその解決策として注目が集まっています。教育現場でのAI活用が進めば、教師の事務作業や定型的な業務を効率化し、本来の教育活動に専念できる環境を構築することができる可能性があります。
一方で、教師の業務を安易にAIに代替させることには、リスクも存在します。例えば、教師にとってやりがいであった業務がAIに奪われるようなことがあれば、教師のモチベーション低下や職業意識の低下につながりかねません。教師のウェルビーイングが低下する状況は、昨今の教師不足をさらに深刻なものにする可能性があります。また、教育現場での教師と生徒の関わりが減少することで、生徒の心の成長や人間性を育む機会が損なわれる恐れもあります。そう考えた時、生徒や保護者にとっても、AIに代替してほしくない教師の業務があることも考えられます。つまり、AIを教育現場に導入する場合、どの業務をAIに任せ、どの業務を人間が担い続けるべきかを見極めることが重要となってきます。
本研究はそのバランスを探り、AI時代における教育の質と教師のウェルビーイングを両立させる方法を検討、実現していくものです。
本研究の目的は、教育現場におけるAI活用の可能性と課題を明らかにし、教師の働き方改革と教育の質向上の両立を実現する道筋を示すことにあります。本研究では、教師の業務を改めて整理し、AIの代替可能性を検証すると共に、教師がAIに抱える懸念点を明らかにし、教師に寄り添ったAIの教育現場への導入のための方法を開発します。
本研究によって得られる研究成果としては、教育現場におけるAI活用の具体的な方法が明らかになることです。教師の業務の中でAIに任せるべき部分と、人間が担うべき部分が整理され、効率化と教育の質向上を両立させるための実践的な指針が得られます。これにより、教師の業務負担が軽減され、教師が本来の教育活動や子どもとの関わりにより多くの時間を割けるようになると考えられます。その際には、教師のウェルビーイングの視点からそれらを整理することによって、技術偏重ではなく「人間中心」の教育のあり方を示すことができると思います。最終的には、本研究の成果は教育分野にとどまらず、他の職域におけるAI活用や働き方改革にも応用可能な知見となることが期待できます。
本研究で得られる知見は、まず教育現場におけるAI導入の実践的な指針として活用されていくと考えています。具体的には、教師の業務の中でAIを活かす領域と、人間が担うべき領域を明確に示すことで、学校や自治体がAIの導入を検討する際の判断材料となります。また、本研究で開発するAIの導入手法は教育分野にとどまらず、医療や福祉、行政など、人とAIの協働が求められる他分野にも応用可能です。本研究の展開は、単にAI技術を現場に導入することではなく、人間のウェルビーイングを守りながらAIを活用する社会の実現に向けた重要な一歩となることを目指しています。