佐藤 妃映 教授
- TEACHER’S KEYWORD -
Q.中学、高校時代に熱中したことは?
祖母と過ごす時間が多くなり・・・
中学の頃は父の転勤で色々な所に行って、行く先々で友達もでき、楽しく過ごしていました。でも高校生になって、実はこれがその後の人生を大きく左右するのですが、祖母が病気になってしまい・・・。高校時代は部活動よりも、入院した祖母のお見舞いや自宅での介護など、祖母と過ごす時間が多くなりました。でも、幸せな時間でしたね。
Q.大学に行こうと思った理由は何でしょうか?
祖母のような人を減らしたい
今話したように、祖母が病気になったのですが、病名は肝臓がんでした。でも、最初は違う病気と診断されて、本当の病名がわかるまでに時間がかかってしまいました。その時ですね、正確な診断には正確な検査が大事だということを痛感したのは。その時、臨床検査技師という仕事があることを知りました。
臨床検査技師の中でも、特にがんの早期発見のスペシャリストである細胞検査士になりたいと思うようになりました。祖母のような人を減らしたいと思ったからです。正確な検査をして適切な処置をしていたら、祖母は毎日もっと穏やかに過ごすことができたかもしれないという後悔が、この道を選んだ理由です。細胞検査士になると決めたら、早かったですね。もう全く迷いはありませんでした。その後、臨床検査技師と細胞検査士の受験資格を得ることができる大学に進学しました。
Q.大学生活はどうでしたか?
ボランティアサークルで自分自身と向き合う
ボランティアサークルに入り、充実した毎日でした。大学の隣に附属病院があったのですが、病院の面会時間は夜7時くらいまでなので、赤ちゃんや子どもは家族と別れる時に泣いてしまう。ボランティアサークルでは、赤ちゃんを抱っこしたり、子どもの話し相手になったりして悲しい気持ちを和らげるという活動をしていました。でも、子どもの対応って本当に難しい。こんなことを言ってしまったけど傷ついてないだろうかとか、自分の言動を反省したり後悔したりすることも多くて、自分自身と向き合う良いきっかけにもなりました。
Q.なぜ大学院に行こうと思ったのですか?
がん細胞をもっと知りたい
祖母の件もあり、やはりがん細胞にとても興味があったので、もっと学ぶために修士課程に進学しました。でも、進学当初は戸惑いましたね。それまでは1限から5限までスケジュールが決まっているのが当たり前でしたが、大学院は時間管理や研究計画など全て自分で決めないといけない。あれもこれもやらなければと気持ちばっかり焦ってしまって、結局、何も身に付かない、それがまた焦りにつながるという悪循環に陥ってしまって、ちょっと精神的に辛い時期でした。もう自分は研究者に向いていないのではと思い、大学院は修士課程で終えて、臨床検査技師、細胞検査技師として大学病院に就職しました。
Q.その後はどうしたのですか?
教員をしながら博士課程へ
病院の仕事はすごく楽しくて、やりがいもあったのですが、ある時、大学の恩師から岡山の大学で教員の募集があるので行ってみないかって声をかけられました。岡山には行ったこともないし、知っている人もいないし、ましてや研究者に向いているかどうかも分からない。でも、なんかこれは行かなければと直感的に思いました。その後、岡山に行って教員になったのですが、やはり博士号が必要ということで、教員をしながら博士課程に進学しました。
Q.博士課程はどうでしたか?
楽しい研究生活
修士課程では自分には研究者は向いていないと思って就職しましたが、社会人になってからは時間管理や自分のマネジメントがある程度できるようになっていたので、ならば挑戦してみようかなと思って博士課程に進みました。修士時代より気持ちに余裕が出てきて、研究もすごく楽しかったので、行って良かったと思っています。博士号を取るまで時間はかかりましたが(苦笑)。
Q.研究テーマはどう決めたのですか?
標本1枚1枚が患者さんの人生
祖母の件で高校生の時にがん細胞に興味を持ってから、ずっとがん細胞の遺伝子の異常やがんの発生に関する研究を続けてきました。がん検査は細胞診検査と呼ばれるのですが、細胞診検査では患者さんから採ってきた細胞を顕微鏡で見れば、がんか否かだけでなく、患者さんの体の中で起こっていることも知ることができます。じっくり標本を観察してこれは悪いな、がんだな、だからこの患者さんにはこういう治療をしようとか、患者さんのその後を決めていくとても大事な検査が細胞診検査です。
ここに組織ブロック(がん細胞の集塊)を持ってきたので、ちょっと見てください。一部に白く見えるところがありますが、これががんです。この組織ブロックからすごく薄い標本を作ります。薄さは5マイクロメートル。ちょっとピンとこないかもしれないけど、なぜそんなに薄く切るかというと、顕微鏡で観察するためです。顕微鏡では、組織標本に光が通らないと、細胞の構造を見ることができません。そして、透明な細胞に色をつけることで、細胞ひとつひとつの特徴を詳細に観察することができます。この標本のようにピンク色だけでなく、他にも色があって、病気の種類によって染色法を変えます。そうすることでどんな病気かもっと詳しく知ることができる。この標本を作るのが臨床検査技師や細胞検査士です。ちなみに、この標本を薄く切るというのも経験を積まないとできないスキルなのですよ。
私たちは直接患者さんと接することは少ないけど、標本1枚1枚が患者さんの命、患者さんの人生です。ですから、標本と向き合う時はやはりすごく気持ちが引き締まります。がん細胞を見落としたらいけない、ミスは絶対許されない。がん細胞かどうかを診断するためには、自分の目を信じるしかない。それまで培ってきた知識と経験が全てで、頼れるのは本当に自分だけ。命に関わる仕事で大きな緊張感がある反面、その緊張感が心地良くもあります。一生勉強が必要な仕事なので、自分が成長できる仕事です。
判断が難しい細胞があった時、複数の人が集まって議論することも少なくありません。この細胞はもっとこう見えるのではないか、この診断はこうなのではないかと、みんなで話し合います。そういう議論を通して、様々な人の考え方を知ることができるし、自分では気付かなかった視点を得ることもできます。その議論の場もすごく有意義で、好きな時間です。
細胞の見た目、形態学も大好きで、大学生の頃から形態学の魅力にはまっています。遺伝子の異常とか、もっとがんの発生について知ることができればより適切な治療ができると思い、研究を続けてきました。
Q.今後、取り組んで行きたいテーマは?
個別化医療・ゲノム医療分野研究を
今までがんの遺伝子の異常や発生について研究してきましたが、これから考えていきたいのが、個別化医療やがんゲノム医療分野の研究です。個別化医療というのは1人ひとりの患者さんに合った、患者さんの体質や病気の特徴に合った効果的な治療のことですが、そのためには遺伝子検査が必要となります。遺伝子検査を正確に行うためには、患者さんから採取した細胞や遺伝子情報がきちんと保存されることが大切。患者さんの細胞や遺伝子の品質をチェックする方法について研究をしています。この研究で実際の臨床の場で役立つ、新しい知見を得ることができたらいいと思っています。
MESSAGE
先生が北陸大学の学生に想うことや、
高校生へ伝えたい想いなどをお聞きしました。
INTERVIEWER COMMENT
実際にインタビューした学生が、
先生の新たな発見や魅力について記録します。
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佐藤先生は、人生の転機ともいえる出来事を経て様々な道を通り、現在この北陸大学で働いておられます。その"様々"の中には、佐藤先生ご自身の努力はもちろんですが、ご縁を大事にするということも含まれているそうです。今回のインタビューは、佐藤先生の生き方を知り、自分自身が何を大切にすべきかということに目を向けられる良いきっかけになったと思います。
(取材日:2021.10.5)