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現場経験を活かして
臨床検査技師を育成

医療保健学部 医療技術学科

關谷 暁子 准教授

- TEACHER’S KEYWORD -

  • #検査血液学
  • #臨床検査学教育学

PROFILE

医療保健学部 医療技術学科

關谷 暁子 准教授

趣味 イラスト (おもに教育に関するイラスト、似顔絵など)、グラフィックレコーディング

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Q.中学生時代や高校生時代に熱中していたことはありますか?

絵を描くのが大好き

中学生、高校生の時は漫画家になりたかったのですよ。子供の頃から絵を描くのが好きだったので、中学生の時も高校生の時も絵ばかり書いていました。あとで話しますが、実はこの経験が今になって大きく役立っています。

Q.保健学を専攻した理由を教えてください。

血液学や微生物学、免疫学と出会って

いま話したように、最初は漫画家か、そうでなければ英語が好きだったので英語の先生になりたいって思っていましたが、高校1年生の時に友達から借りた『動物のお医者さん』という漫画を読んで考えが変わりました。獣医さんがいいなって。それで理系クラスに進んでしまいました(笑)。

ただ、いざ蓋を開けてみると、獣医学部は自分が想像していた以上に難しそうで、行ける学部も少なかった。それで獣医を目指すことは早々に諦めました。

ですが、理系クラスで選択した「生物」にどハマりしたんです。授業も面白かったし、先生がご自身の大学時代の話をよくしてくれて。当時、私の家族や親戚には大卒者がいなかったので、「大学」というもののイメージがあまりなかったのですが、生物の先生のお陰で「大学で生物学をもっと勉強したい」という気持ちになりました。

で、どうしようかと迷っていた時に、『アウトブレイク』という未知のウイルスとの戦いを描いた映画を観たんですね。感染症の研究者が蔓延するのを防ごうと奮闘するストーリーなのですが、ちょうどその時、実際にエボラ出血熱という致死率の高い感染症がアフリカで流行していたこともあって、医学に興味を持つようになりました。

そんな時に知ったのが臨床検査技師という仕事です。学ぶ内容に血液学や微生物学、免疫学といった科目が並んでいて「あ、これ面白そう、 やりたい」って。

タイミングも良く、ちょうど金沢大学医療技術短期大学部が4年制に変わる時でした。私は富山県出身なので、近くの国立大学で臨床検査技師を目指せるということで、金沢大学を目指しました。

Q.大学入学後は?

露天商のバイトも

バスケットボールのサークルに入って大学生活を満喫しながら、アルバイトもかなりしましたね。大学では寮に入りましたが、仕送りゼロ、学費は免除されていて、生活費は奨学金とバイト代で賄っていました。お祭りの露天商のバイトなんかもかなり長くやりましたよ。大学 1 年生から大学院を卒業するまでの6年間、一見悪そうなおじさん達(笑)とトラックに乗って、クレープやお好み焼きを売っていました。他には家庭教師や塾の講師なども。「教える」ことが性に合っていたと思います。

元々、大学院に行こうとは思っていませんでした。4年生になる前の春休みには、卒業したら富山に帰って病院で臨床検査技師になると思っていたのですが、卒業研究が進路を変えるきっかけとなりました。

Q.進路を変えた卒業研究の内容とは?

遺伝子解析「あ、面白い」

先天性第Ⅹ因子欠乏症(*)の遺伝子解析です。今だとちゃんと技術があって設備が整っていれば1週間もかからず結果が出るのですが、当時は1年間かけてようやく1つだけ遺伝子の異常が見つかって。それまでずっと結果が出ないって焦っていたけど、いざ見つかったら「あー、なんか面白い」と。この後、何があるのかという話を先生に聞かせてもらった時に大学院を意識しました。

ちょうど私が卒業するタイミングで大学院が設置されたこともあり、入試の時期が遅かったのですよ。大学院進学が頭にあったので、就活には結局踏み出さず(笑)。卒業前ギリギリで受験することができたことも、大学院進学を後押しする形になりました。

(*)第X因子は血液が固まる際に働くたんぱく質(血液凝固因子)のひとつ。遺伝子の異常により血液凝固因子がうまく作れなくなると、通常よりも出血しやすくなったり、出血した時に血が止まりにくくなったりする。出血しやすくなる病気として有名な「血友病」は、正式名称が「先天性第VIII因子欠乏症」であり、同じく血液凝固因子である第VIII因子がうまく作れないことが原因。

Q.その後は?

研究を仕事にして苦労

大学院修士課程を修了した後、金沢大学附属病院の検査部で臨床検査技師として5年間働きました。その後、恩師から「大学で教員の募集があるからどう?」って声がかかって、また大学に戻ったのですが、学ぶために研究するのと、研究を仕事にするのとでは全く違い、かなり苦労しました。自分の専門(当時は血栓止血学(*))を考え直す契機になりました。

(*)「血液が固まる仕組み」を深く追求する学問分野。血液は、身体の中では固まることなく血管内を流れている(循環)が、怪我などで血管の外に流れ出ると速やかに固まり、出血を止める(止血)。この仕組み(止血機構)は、血液中に含まれる様々な種類の細胞や、たんぱく質、血管や組織の細胞の複雑な相互作用によって調整されている。止血機構に異常が起きると、出血しやすい、血が止まりにくいなどの「異常出血」や、血管の中で血が固まって血管が詰まる「血栓症」が起こる。「脳梗塞」や「心筋梗塞」も血栓症である。「血栓止血学」は、止血機構の詳細を明らかにし、異常出血や血栓症によって人々の健康が害されることのないよう、予防法や治療法を開発するための学問分野。

Q.専門を考え直す?

臨床検査技師の魅力を伝えたい

私は学生といるのが、とにかく楽しいのですよ。血栓止血学の研究も楽しいですが、学生と一緒に実験をして良い結果が出ると、自分の実験が上手くいくよりも嬉しい。そもそも私はなんで教員になったのかと言えば、教育がしたかった。

学生の頃の話に戻りますが、私は臨床検査技師になりたくて大学を選びましたが、同級生の中にはそうではない人もいた。教員になってからも同じです。本当は医学部に行きたかった、あるいは薬学部に行きたかった、こんなはずではなかったという気持ちを抱えながら大学生活を送っている学生が一定数いることを知りました。

大学4年生の時、病院実習で現場の臨床検査技師に直接指導を受けて学んだのですが、本当に面白かった。現場経験のある臨床検査技師が教員にいればこんなはずではなかったという人にも臨床検査技師は楽しいと思ってもらえるのではないか。この職種の魅力を伝えたい、臨床検査技師って面白くて魅力的で社会的に価値がある仕事だということを、学生が感じられるようにしたい。その辺が原点にあります。

Q.それが専門を変えるきっかけになったということですね。

授業の役割は専門知識を身につけることだけではない

北陸大学は現場経験がある人が学生を育てるというのをコンセプトとしていて、私が現場で働いていた時に尊敬していた臨床検査技師の方々が、教員として働いています。

専門知識を身につけることだけが授業の役割ではありません。自分の将来の姿がポジティブな形で描けるようにするのが授業だし、教育だと思います。

血栓止血学の世界には、私よりも貢献できる人が大勢いますし、かつて一緒に研究に励んだ同僚や後輩の何名かは、すでに立派な研究者になっています。一方、臨床検査技師を育成することを 1 日中考えている人はそう多くないと思います(笑)。私は、臨床検査という分野を発展させるような教育がしたいし、そのための、教育開発を研究テーマにしてみたい。短大から4年制への端境期に大学に入学し、大学院に進み、博士号まで取らせてもらった自分が、担わなくてはならない役割なのではないか――40代に差し掛かる頃、そういうことを真剣に考えるようになりました。だから、北陸大学に来た時に、メインとする研究テーマを変え、臨床検査技師の育成を研究する「臨床検査学教育学」をテーマにしました。

Q.今後は?

職種を超えて連携することが必要

しばらくやりたいと思っているのが多職種連携教育に関する研究です。例えば患者さんに関わっているのは臨床検査技師だけでなく、医師や看護師、理学療法士、臨床工学技師などもいるわけですよ。それぞれの専門家が自分たちのやり方でベストなことをやっていれば患者さんにとってトータルでベストかと言うと、実はそうではありません。また、医療だけでは解決できないものも多くなってきています。

病気を治すことはもちろん大切ですが、その人の暮らしを良くするということを考えた時、職種を超えて連携してその人の暮らしを支えることが必要となります。今の時代はそういうことができる医療従事者の育成が大事なのですが、専門性を追求してきた集団が教育をすると、やはり壁ができて、多職種連携教育は思ったほど進んでいないというのが実情です。このあたりを解決したいと思っています。

学問領域を、もし目に見える形に例えるとしたら、目玉焼きみたいなイメージです。真ん中が膨らんでいて、端っこが薄い。臨床検査の領域で言えば、真ん中の膨らんでいる部分は検査の技術発展させるとか、新たな知見を得るとか、このあたり。一方、臨床検査の教育はおそらく端っこ。でも、端っこにあるようで、たぶん他の色々なこととつながっているのですよね。

例えば、経済経営学部の藤本雄紀先生と一緒にしている研究があります。心臓に超音波を当てて心臓の断面図を得る心エコー(心臓超音波検査)という検査があるのですが、学生は60人もいるのに練習できる装置が3台しかなくて、実習時間は待ち時間ばかりです。心エコーは探触子(プローブ)(*)の角度が重要なので、探触子の持ち方と角度を練習できるデバイスを作れたら、教育の質を改善できます。どの角度から当てたら、どんな映像が得られるかというデータを事前に取って、デバイスがこの角度になったら、こういう画像が iPad に出るみたいなものを作れれば、待ち時間問題の解消だけでなく、検査技術の向上にもつながります。

(*)超音波検査を行う際に、検査者が手に持って患者さんの身体にあてる部分。プローブの中には超音波を発生/送信/受信するセンサーが組み込まれている。プローブから出た超音波は、患者さんの身体の中に入り、臓器の境目や血管の壁にあたると一部がはね返って戻ってくる。はね返ってくるまでにかかる時間から、その臓器や血管の壁までの距離が計算され、ディスプレイに断面図として表示される(漁船の魚群探知機と同じ仕組み)。診断に適した断面図を得るためには、プローブを適切な位置と角度で身体にあてる必要があり、その技術の修得には熟練を要する。

自分が知っていることを他の分野と掛け合わせて何かを生み出すという仕事が自分には向いていると思っています。今すぐ役立つ具体的な知識や技術に加えて、今は分からないけど、20年後に発動するような、興味・関心の種を、学生の中にまく。そういう気持ちで、学生と一緒に研究に取り組んでいます。私にとって、教育と研究は一体のものです。

今の学生たちへ

MESSAGE

先生が北陸大学の学生に想うことや、
高校生へ伝えたい想いなどをお聞きしました。

MESSAGE.1

選ばなかったものも大事にしてほしい

高校生に対するメッセージ

今は納得して決めるということが難しい時代になったと思います。しかし、納得し切れずに決めたとしても、納得できない気持ちを否定せず、持ち続けて欲しいと思います。

先ほど、将来漫画家になりたかった時期があったと言いましたが、それは今やっている「グラフィックレコーディング」に役立っています。グラフィックレコーディングというのは、会議などで話し合われている内容をその場で絵や文字で表現することですが、結局、どこで何が役立つかは分かりません。大事にしてきたものが思わぬ形で発揮されることもあるのです。

私は漫画家にはなりませんでしたが、絵ばかり描いていた中学生の頃の自分が、教員の中でも自分をユニークな存在にしてくれました。だから選ばなかったものでも、自分にとって大切なものであれば、そっと持っておいてほしい。選んだものはとりあえず頑張りつつ、選ばなかったものも大事にしてほしい。

MESSAGE.2

自信を持って行動してほしい

北陸大学の学生にアドバイスを

医療保健学部は本当に良い学生ばかりです。この人たちが臨床検査技師になったら、臨床検査がもっと面白くなると確信しています。だからこそ、もっと自分に自信を持って行動してほしい。ちょっとチャンスに対して淡白なように見えます。できるのにもったいない。

最初のチャンスに踏み出せてないまま、こんなものかって生きている感じがします。これは北陸大学の学生だけでなく、多くの大学生もそう。省エネというか、そこそこ、ほどほどというスタンス。エネルギーを投じることに対して報われた経験が少ないのかもしれません。その意味では、そのような社会構造にしてしまった我々大人も反省しばければいけないと思っています。

インタビュアーコメント

INTERVIEWER COMMENT

実際にインタビューした学生が、
先生の新たな発見や魅力について記録します。

INTERVIEWER COMMENT

臨床検査技師育成に真摯に向き合っている姿が話の節々から伝わってきました。關谷先生のような先生に教わったら、熱い想いを持った臨床検査技師になると思います。大変、魅力的な先生でした。「学生と一緒に実験をして良い結果が出ると、自分の実験が上手くいくよりも嬉しい」。こんな先生に教わりたいです。ありがとうございました。

INTERVIEWER 木村尚輝 吉田昂平

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