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良い薬ができれば
何万、何十万の人を助けられる

薬学部 薬学科

松尾 由理 教授

- TEACHER’S KEYWORD -

  • #薬理学
  • #神経化学(中枢)

PROFILE

薬学部 薬学科

松尾 由理 教授

趣味 テニス、スキー、音楽鑑賞

公益財団法人北國がん基金第36回研究助成対象者
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Q.中学校や高校時代に熱中したことは?

ミュージカルで優勝

中学校はバレーボール部、高校は女子硬式テニス部で部活中心の日々でした。部活を引退した後も、高校3年では秋の文化祭に向けた準備で忙しかったです。私の高校は文化祭に力を入れていて、3年になると演劇とかミュージカルをやるのが定番でした。私のクラスはミュージカルをやったのですが、皆で頑張った甲斐もあって全学年の中で優勝したのは高校最後の良い思い出です。

Q.勉強はしなかったのですか?

文化祭の準備と両立

もちろん勉強もしましたよ(笑)高校は進学校だったので、ほぼ全員大学に進学します。なので、誰もが自ら勉強をする環境にはありました。さっきも言いましたが、部活を引退した後、勉強しながら文化祭に向けて準備するのはかなり大変でした。今こんなことをしていて良いのだろうかと思いながら踊っていたような気がします(笑)でも、それがまたリフレッシュになって良かったのかもしれません。みんなで志を持って勉強していました。

Q.東京大学を目指した理由は?

研究者になるのが夢

一番の理由は、夢だった研究者になるために、最も近道になる大学だと思ったからです。知識・技術を学ぶ体制が整っていました。生物系の研究がしたかったのですが、高校生の時は専門までは決められませんでした。東大は進学振り分けという制度があって、学部は3年次で決めます。どの学部が自分にとって一番良いのかよく分からなかった私にとって、この制度は魅力的でした。毎年100人ぐらい東大に行く高校だったので、それが特別ではない環境で切磋琢磨できたのは良かったですね。

Q.理系がはっきりしていたのはなぜ?

社会、国語はまったくダメ(笑)

数学と物理が好きだったからです。社会、国語はまったくダメ(笑)。英語もちょっとダメ。好きな科目が完全に理系でした。大学へ行ったら、数学と物理は難しすぎて、生物が好きになりました。

Q.どのような大学生活でしたか?

前半はテニス三昧、後半は研究に熱中

大学 1〜2年は普通の大学生というか、テニスサークルに入って活動をしていました。サークルといっても、関東のサークルで優勝とか、そういうレベルを狙っているサークルだったので、練習も部活動並みに週 5回くらいあって、勉強以外はテニス三昧の日々でした。 何かに熱中するのが好きだったんです。

その後、進振りでどこに行こうかとなった時に、薬にすごく興味を持ち始めて。私が入ったのは理科2類だったので医者にはなれないけど、医療に貢献したいと。お医者さんが治せる人数は限られるけど、良い薬ができれば何万、何十万の人を助けることができる。そう思って薬学を選びました。もともと小さい時から将来研究者になりたいという憧れがあったので、そこからはもう研究に熱中しました。

Q.なぜ研究者になりたいと思ったのですか?

何かを発見したい

父親が研究者だったことが影響しているかもしれません。白衣を着て、試験管とかを振っている姿に憧れていました。何か発見してみたいなと。

Q.そして研究者を目指し、大学院に進学するわけですね。

中退して助手へ

進学はしたのですが、実は博士2年次で中退して、北里大学の助手になりました。なので、博士号は課程博士ではなく、論文博士です。

Q.中退した経緯を聞いてもいいですか?

就職の難しさに直面

そのまま大学院にいれば博士号を取れたと思いますが、取ったとしても就職が難しいんですよね。博士号を取ってもポストがあるかというと、タイミング等の問題もあり、なかなか難しい。女性はさらに厳しい。そんな時、私の指導教員の知り合いだった北里大学教授から助手のオファーをいただきました。博士号は助手になって研究を続けていれば取ることが出来ると思い、職を得るチャンスだったのでオファーを受けることにしました。

Q.今の研究テーマである薬理学との出会いは?

記憶の研究から炎症へ

薬学部では色々な実習があるのですが、その中にネズミを使って記憶を調べる実習があって。ネズミで記憶が分かることにすごく驚いて、興味を持ったのがきっかけです。で、そのままその研究室に入りました。その研究室は薬理系の研究室で、脳の研究、具体的には記憶や学習などの研究をしていたので、学生時代はそれが研究テーマでした。

ところが助手として入った北里大学の研究室は炎症がテーマだったので、最初はすごく大変でした。でも、そこで炎症のことを色々と教えてもらっている間に、脳と炎症を結び付けるのが自分らしい研究かもしれないと思い、それ以来もう 20 年以上脳炎症を研究しています。

Q.脳の炎症反応とは?

炎症が神経機能に悪影響

手をぶつけたり切ったりすると赤く腫れたり、ズキズキして痛かったりしますよね。そういうのを炎症反応と言うのですが、同じようなことは脳の中でも起きます。それが神経機能に悪い影響を及ぼして、脳の働きが悪くなる。最近、この分野に世界的な注目が集まってきています。私は脳の研究をして、その後、炎症の研究室に行ったので、かなり早い段階から脳炎症の研究を始めることができたのは幸運でした。

Q.脳炎症の研究の難しさは?

治療への応用は長い道のり

脳炎症って言ってもあんまりピンと来ないかもしれませんが、例えば脳梗塞とか脳出血などの脳卒中、パーキンソン病とかアルツハイマー病などの神経変性疾患、あるいはてんかんとかさらには精神疾患、例えばうつ病も全部脳の中で実は炎症が起きています。以前はそういうことはあまり分かっていませんでしたが、近年それがすごく注目されるようになってきて、炎症を抑えれば神経を守れるのではないかということも分かってきています。ただし、得られた結果がすぐにヒトの治療に応用できるかと言うと、とても道のりが長いのが難しいところです。

Q.研究のゴールは見えてきましたか?

基礎研究なので地道に続けることが大切

ゴールまでの距離はまだとても長いです。さっき研究の難しい点は何かという質問がありましたが、脳は薬にするのが最も難しい場所なんですね。脳はとても大事な場所だけに色々と守られていて、外からモノが入りにくい。例えば薬を飲んだとしても、脳に到達しないことも結構多い。

あと臨床試験と言って、薬ができるまでには長いプロセスがあります。最初は健常時で試して、次に少数の病気の人で試して、そして多くの病気の人で試して。臨床試験の前にも動物実験があって、すごく長いプロセスがあって薬ができるわけですが、脳の薬は臨床試験もやりづらい。

なので、脳の薬を作り出すのはかなり難しいというのが正直なところです。特に私がやっているのは基礎研究なので、すぐに薬に結びつくわけではありません。ただ、こういう研究を続けていくことで、薬の種やターゲットが見つけられれば、企業との共同研究、産学連携などにつながる可能性もあるので、地道に研究を続けています。

Q.今後、取り組みたいテーマはありますか?

精神疾患で新薬開発

これまでは脳梗塞とか脳出血とかパーキソン病とかある程度脳の中にはっきりとした病変が出るものをテーマにして研究を進めていましたが、最近はストレス社会と言われていますし、精神疾患にも力を入れようと思っています。

最近はメディアでもストレスが問題になっていますが、実はうつ病患者は生涯有病率で1 割以上いると言われていて、かなり多くの人がうつ病になっているという現実があります。もちろん薬もあるのですが、薬で治らない治療抵抗性の患者もかなりいる。その人たちは良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長く患っている。そうした今の薬では治らない患者を治したい。今の薬で治らないということは、全く別の作用機序の薬が必要。炎症を抑えることで、新しい薬を創れるかもしれないと思っています。

Q.生きる上で大切にしていることはありますか?

出会いを大切に

出会いを大切にしています。私には「道しるべ」のような人が何人かいて、「その人だったらこんな時どうするだろう」とよく考えています。またいろいろな場面で助けていただいています。そういった方々の存在は常に私の大きな支えになってくれています。そういった良い出会いを皆さんにもいっぱいしてほしいと思います。

今の学生たちへ

MESSAGE

先生が北陸大学の学生に想うことや、
高校生へ伝えたい想いなどをお聞きしました。

MESSAGE.1

難しいと分かっていて選んだ道ならきっと後悔はしない

北陸大学生へのメッセージ

薬学部の学生は真面目で純粋。山奥すぎて遊ぶ場所が近くにないというのもありますが(笑)ある程度勉強しないと国家試験に受からないので、遊んでいられないというのはもちろんありますが、それにしても部活とかサークルとかをやっている人もあまりいない。その分、一生懸命勉強して、すごく純粋、ひねくれていないという印象があります。ただ、大学生なのだから、色々なことにチャレンジしたり、熱中したりしてもいいのかなとも。

生きていれば岐路に迷うこともあると思います。そんな時は人に言われて決めるのではなく、自分の意思で道を選んでほしい。私の恩師は「岐路に迷った時は最も難しい道に進みなさい、そうすれば後悔はしない」と言っていました。岐路に迷った時、私はこの言葉は思い浮かべ決断するようにしています。楽そうだと思って進むと、逆に後悔する可能性がある。難しいと分かっていて選んだ道ならきっと後悔はしない。自分でしっかり考えて、安易な道に流されずに、進んで行ってほしいです。

MESSAGE.2

無限の可能性、色々なことにチャレンジを

高校生へのメッセージ

高校生は、本当に無限の可能性があると思っています。ですので、色々なことにチャレンジしてほしい。ネットにはたくさんの情報があるので、そうした情報の中からチャレンジできそうなものを選んでもいい。色々な人と出会い、色々な経験をする中で、自分が本当にやりたいことが見えてくる。夢は途中で変わってもいいので、大きな夢を持ってほしいです。そして、その夢に向かって一生懸命進んでいってほしいです。

インタビュアーコメント

INTERVIEWER COMMENT

実際にインタビューした学生が、
先生の新たな発見や魅力について記録します。

INTERVIEWER COMMENT

理系の先生のインタビューは初めてだったので緊張していたのですが、気さくな先生で緊張感はすぐに解れました。私たちが日頃お世話になっている薬はこうした地道な研究から生まれているということが分かり、非常に勉強になりました。「良い薬ができれば何万、何十万の人を助けることができる」という言葉から使命感の高さを感じました。ありがとうございました。

INTERVIEWER 大野航也 中﨑楓 吉田紗弥香

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